推薦状

推薦のことば

こころとからだ・光の花クリニック/スペース白い花

白川(西)美也子

 

すごい心理療法センターが開所することになった。名前はシーディング・リソース(Seeding Resource)だという。

 代表の藤本さんは東京未来大学の准教授で、EMDRセラピストであり、思考場療法(以下TFT)創始者のキャラハン博士からTFT診断、TFT上級資格を取得したTFT専門家向けトレーナーでもあり、また吉本雄史先生に臨床催眠の指導も受けている。私とは、EMDR学会を通しての付き合いがあった。彼はブレインスポッティング(以下BSP)に一早く着目し、日本にその開発者のDavid Grand博士を初めて招き、日本にBSPを導入した。

 この藤本さんが、当時開業して間もない私のクリニックを訪ねてくださったときのことである。私はBSPにたいへん興味があったので、技法交換をもちかけた。すなわち、藤本さんが私にBSPを行い、私は藤本さんにフラワーエッセンスの選定をしたのである。

 私はその数年前に起きた職業上の苦痛な記憶を扱っていただいた。BSPはあるやり方で選定した一点を指し棒で指し、そこをクライアントが見つめることから始まる。その記憶を想起しながら、一点を見つめていると、まずいったん苦痛が強まった。しかし、驚いたことに、その苦痛な記憶は少しずつ変化し、15分も立たないうちに、その後、それを想起する度に私を支えてくれる資源(リソース)となる記憶に完全に変容してしまったのである。

 翌日から、出来事からずっと損なわれていた毎朝の目覚めが、穏やかで平和なものになり、それ以来ストレス時などでもぶりかえさなくなったのである。

 このように単に苦痛が減じるだけでなく資源が増すということは、他の技法に全くない特徴ではないが、BSPは、セラピストの見守りと包み込みのなかでの二重同調という二者関係のなかでおきるクライアントの生理機能を基礎に、脳および身体の自然回復力を梃子として相当の早さで変化が生じる。これが、Grand博士がBSPをソマティックエクスペリエンシング・アプローチとEMDRのハイブリッドであると述べた所以であり、かつEMDRのように解離障壁にさわらないため非常に安全なのである。私はこの技法の力に大きな第一印象を受けた。

 その後、藤本さんには第十回EMDR学会の「子どもとEMDR」のシンポジウムをお願いし、その丁寧かつ繊細な仕事ぶりを知ることとなり、とうとう私のクリニックに併設されたスペース白い花でのセラピーを依頼することとなった。

 ストレス・トラウマ性疾患の専門医としての私に依頼されてくるのは、困難ケースとされたものや、医療のなかでこじれたヒストリーをもつケースが多い。そのなかでも、とりわけ時間がかかり、特別に難治な症例を選んで依頼をした。

 そこから半年、それら全事例が、たいへんによい経過をたどり、短い時間で完治に近いアウトカムを出した方も既にいる。これは経過を見守る私にとってもたいへんうれしいことであった。そして、とうとう私自身もBSPを学び始めている次第である。

 藤本さんの治療は臨機応変で、BSPのみならず、EMDR、TFT、ときにはPoints of Youというイスラエル由来の投影法的なカードなども利用し、クライエントの資質や状態に合わせて多様なものを組み合わせて提供される。また人柄としてもバランスが取れており、積極性と共に、絶妙な距離感をもって人と接している。身の周りの仲間のなかで、優しさと思いやりをベースにした、よい関係を維持しているのである。この藤本さんが、そのお仲間と開業されるといったら、推薦をせずにはいられない。

 今精神科医療は、一種の行き詰まりを迎えている。精神科医で日に何十人の診療をこなさなければならないもので、自分の臨床に十分満足するのは困難である。皆ギリギリのなかで、少しでも役に立ちたいと、精一杯の臨床を行っている。しかし、ストレス・トラウマ性疾患において、薬物は多くが対症療法にすぎない。副作用や薬剤耐性の問題と相俟って、病態はこじれ、患者も医師も薬剤に依存せざるを得ない状況になっている。

 必要なのは、身体を視野に入れたきちんとした医学的見立てと医学的治療、そして、心理面での見立てと質の高い心理療法の提供の双方である。私は精神科医であり、臨床心理士であるという立場で複眼視をしてきたが、それは特殊な経歴からそうならざるを得なかっただけで、今現在、即必要なのは、システムとしての精神医学と心理療法の連携なのである。

 シーディング・リソース:心理療法の最大の恩恵である資源の種を蒔くとは、その人のもつ最大限の自然回復力をエンパワメントすることであろう。そして、その視点を明確にもった本センターが、日本のメンタルヘルス領域に重要な種を蒔くことを信じて疑わない。BSPを始め、藤本さんが使う多くの技法は、超重症な人から、健康な人をより健康にするパフォーマンスの向上まで広く役にたつ技法である。それらは資源として人を癒すだろう。自らそれを求める力のある人は自ら求めるだろうし、精神科医にも大いに利用してもらいたい。

 この場を通して、多くの人が癒され、多くのセラピストが育ち、そうして社会が癒されていくことを心から祈念して、推薦の言葉とする。